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忙しい職場ほど、仕組みは“考える場”を考えよう〜マニュアルではなく“思考を共有する型”を〜

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■ 仕組みとは“考える力”を支えること■

「人手が足りないから仕方がない」「忙しいから、とにかく回すしかない」
そんな声を日々の現場で耳にすることがあります。

看護の職場には多くのマニュアルや手順書が整備されていますが、それでも情報の行き違いやケアの質のばらつきは絶えません。そこに共通しているのは、“判断のしかた”や“考える力”が、個人の経験に依存している構造ではないかと考えます。

私たちが本当に仕組み化すべきなのは、「このとき、どう考えるべきか」をチームで共有できる“思考の型”や“対話の場”ではないでしょうか
忙しい現場であっても、その本質を守ることは可能です。

以下に紹介するのは、弊社の問題解決研修で取り組んだ、ある病棟の「申し送り」の仕方を見直すことで、現場全体の判断力と安心感を高めた事例です。

 

■ 事例:A病棟の申し送りフレームワーク導入■

急性期病院のA病棟では、以前から「申し送りが長い」「人によって伝え方が違う」「聞いたのに、あとで確認し直すことが多い」といった課題がありました。
特に新人スタッフからは、「情報が多すぎて、結局どうすればよいのかわからない」という声が出ており“言われたことをただ受け取るだけの受け身の伝達”になっていたのです。

そこで、病棟内で検討されたのは「情報の整理」ではなく、「判断のしかたを共有すること」でした。導入されたのは、以下の申し送りフレームワークです。

 

【A病棟で導入した“申し送りの3ステップ”】

  1. 背景:なぜこの情報が大事なのか
  2. 変化:何が起きたのか、どう見えたのか
  3. 判断:これからどう観察し、どう考えるべきか

 

これにより、たとえば以下のような申し送りが生まれました。

「〇〇さん、朝から落ち着きがありません。昨晩から便通がなく、腹部不快が原因かもしれません。

昼食後の徘徊が継続していれば、鎮静より排便状況の確認を優先してみてください。」

 

このように、「ただの事実」だけでなく、「なぜそう考えるのか」「次にどう判断すべきか」といった“思考のプロセス”を一緒に伝える申し送りが行われるようになりました。

導入後、新人スタッフからは「次の行動に自信が持てる」「なぜその行動をとるのかが見えるようになった」という声が増加しました。

 

■ 情報ではなく“判断”を共有する■

この事例から見えてくるのは、情報量やマニュアルではなく“考え方の道筋”を見える化することが、現場の力を底上げするということです。

従来の申し送りでは、「〇〇さんが○○でした」といった事実だけが並び、「それをどう見ればいいのか」は各自の解釈に委ねられていました。
しかし現場には、経験年数や役割、スキルの異なるスタッフが混在しています。だからこそ“どんな見立てで動くか”を共有する仕組みが必要なのです。

ここで大切なのは、「正解を決めること」ではありません。
むしろ、「どのように考えるのか」を全員で揃えておくことで、判断の質や安心感が向上し、スタッフ間の学びも加速します。

 

■ 仕組みは、「考えることを守る」もの■

「仕組み化」と聞くと、冷たく画一的で、現場の柔軟性や看護の直感を奪うように思われがちです。
しかし本来の仕組みとは、「考える力を個人に任せきりにしないための支え」です。

特定のベテランだけが状況判断をしているような属人化した状態は、離職やミス、組織の硬直化を引き起こします。
反対に、「こう考えたらよい」という枠組みを持ち、誰もが参加できるチームは、変化にも強く、人も育ちやすいでしょう

仕組み化とは“判断を奪う”のではなく、“判断を支える”文化づくりなのです。

 

■ 最後に

忙しいからこそ、考えることが後回しになりがちな医療現場。
でも、本当に忙しいときにこそ、「どう考えるか」をチームで支え合える仕組みが求められています。

情報を渡すだけではなく、「なぜこの情報が大切か」「次にどう判断するか」まで共有するフレームは、一人ひとりの看護判断を支え、チーム全体の質を押し上げたといえるでしょう。

“考える力”を仕組みによって守る職場こそ、変化に強く、優しさが循環する現場になっていくと考えます。

 

田中智恵子