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子どもへの声かけについて、ジュニア陸上クラブの保護者に話していることをお話しします。
子どもは、周囲の大人の言葉によって大きく育ち、また深く傷つく存在です。近年、富山大学の研究者をはじめ、多くの教育・心理学の専門家が「親の言葉による虐待(言葉の暴力)」が脳の発達や自己肯定感に及ぼす深刻な影響を指摘しています。
「たった一言」で子どもが萎縮し、挑戦を避けるようになったり、自分を責めやすくなったりすることが、科学的にも明らかになってきました。一方で、言葉は子どもにとって大きな“栄養”にもなります。
「大丈夫、やってみよう」、「ここまで頑張ったね」、「どうすればうまくいくか一緒に考えよう」
こうした声かけは、子どもの脳に安心と意欲をもたらし、行動のスイッチを押す力となります。要は“言葉は、子どもの心と行動をつくる最大の環境要因” と言えます。しかし、実際の「子育て」や「教育・スポーツ指導」の現場では、「どう声をかければいいかわからない」、「何度言っても動かない」、「つい強く叱ってしまう」という悩みが繰り返されています。そこで、効果のある声掛けをするために、まず、子どもが行動に至る仕組み、つまり「なぜ動かないように見えるのか?」を心理学・発達科学の視点から紐解きます。
子どもが「動かない」と感じるとき、私たち大人はつい「怠けている」「集中力がない」「やる気が足りない」と判断してしまいがちです。しかし実際には、子どもが動けない背景には、心理的・発達的な理由が存在します。以下では、子どもの行動が生まれる仕組み――すなわち「行動のメカニズム」を心理学的に整理し、親や教育者、指導者が実践できる支援のあり方をお話しします。
子どもを動かす“やる気”には、2つのタイプがあります。それは、「内発的動機(intrinsic motivation)」と「外発的動機(extrinsic motivation)」です。
子どもが「自分でやりたい」「面白そう」「できたら嬉しい」と感じる気持ちから自然に行動する状態です。たとえば、パズルを夢中で解いたり、好きなスポーツを何度も練習したりするのは、この内発的動機によるものです。自ら選び、楽しみながら取り組む行動は、持続力と主体性を育てます。
褒められる・怒られない・ご褒美をもらう・評価されるなど、外部からの刺激によって動く状態です。
「テストでいい点を取るために勉強する」「叱られないように片づける」といった行動がこれに当たります。短期的な効果はありますが、外的な報酬や圧力がなくなると、行動も止まりやすいという弱点があります。
近年の脳科学でも、内発的動機が高まるとき、脳の報酬系(側坐核や前頭前野)が“挑戦そのもの”を喜びとして感じることがわかっています。
一方、外発的動機では「与えられた報酬」に依存しやすく、やる気のコントロールが外部任せになりやすい。
したがって、教育・指導の目的は「やらせること」ではなく、“やってみたい”という気持ちを育てることにあります。大人は「どうすれば子どもの内発的動機を引き出せるか」を常に意識する必要があります。
子どもが動かないとき、大人は焦りや苛立ちから、つい強い言葉を使ってしまいます。しかし、それが子どもの行動意欲をさらに奪っていることは少なくありません。
こうした声かけは一時的に子どもを動かすことはできても、「自ら動こうとする力」を弱めます。
叱られて動く子は、「叱られないように」行動するようになり、外発的動機に依存してしまいます。
指導や教育の目的は、「従わせること」ではなく「育てること」です。だからこそ、「どうしたらうまくできるかな?」、「何が難しかった?」、「次はどんな工夫をしてみようか?」といった気づきを促す対話が大切です。
叱る代わりに“理解しようとする姿勢”を見せることで、子どもは「自分も考えてよいのだと」と感じ、自律性が芽生えます。
行動には必ず「心の準備段階」があります。子どもが動かないとき、それは“意欲がない”のではなく、“行動に至るプロセスのどこかで止まっている”だけです。心理的には、次の6段階を経て行動が生まれます。
大人が見ているのは、たいてい「⑤実行」の部分だけです。しかし、多くの子どもは①〜④のどこかで止まっています。たとえば――興味はあるけれど、「失敗したら怒られるかも」と不安。「どう始めればいいのか」がわからない。「やってみたいけど自信がない」。行動のスイッチを押すには、まずこの「見えない段階」に目を向けることが重要です。
指導者や親は、「なぜ動かないの?」ではなく、「どこで止まっているの?」と考える。それが、心理的支援の第一歩です。
子どもの行動は“心の流れ”に沿って育つものであり、焦って引っ張っても効果は長続きしません。
このような情報をまとめて定期的に週末開催しているジュニア陸上クラブの保護者に発信しています。
髙橋 俊一