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「データは揃っているのに、結局どう動けばよいのか分からない」——これは、医療・福祉・教育現場でよく耳にする声です。
かつては『情報が足りないから判断できない』という声が多かったのですが、今では『情報が多すぎて、かえって判断が難しい』という現象が起きています。
意思決定において重要なのは、情報の量ではなく、その選び方や意味づけではないでしょうか。
情報と判断はイコールではありません。情報を集めることと、そこから判断を下すことは、まったく別のプロセスです。
【事例】
ある医療機関で離職率の改善を目的にアンケート調査と統計分析を行いましたが、具体的な行動にはつながりませんでした。
その理由は、現場にとって意味のある問いが最初に設定されておらず、集めやすく分析しやすいデータだけに焦点が当たってしまったからです。
このような事例は、『分析しやすい情報』が必ずしも『現場に意味のある情報』ではないことを示しています。
つまり、情報があっても『それをどう見るか』『そこから何を読み取るか』が伴っていなければ、意思決定にはつながりません。
【データリテラシーの実際】
ここで重要なのが、仮説思考です。
仮説思考に至るまでには、次の2つのステップを踏みます。
① 複雑な状況を読み解くために、“ざっとしたデータ収集”で全体像を把握する段階。
この段階では、網羅性や偏りを恐れずに、とにかく多くの情報を集めます。ここで見えてくる“違和感”や“傾向”こそが、仮説を立てるヒントになります。
② 次のステップでは、立てた仮説に基づき、絞り込んだデータを“意図的に取りに行く”ことで検証を進めていきます。
ここで求められるのが、収集したデータをただ眺めるのではなく、「仮説との関係性」や「文脈の中での意味づけ」を行う力です。
このように、仮説を立て、それを検証し、解釈していく一連のプロセス全体を支えるのが“データリテラシー”であるといえます。
つまり、データリテラシーとは、エビデンスの正確性だけでなく、現場の文脈に応じて情報を解釈し直す力なのです。
医療経営では、両者のバランスが求められます。
【“使える情報”の3つの視点】
情報を有効活用するためには、次の3つの視点でその質を見極めることが大切です。
① 信頼性:情報の出どころや収集方法、バイアスの有無を見極める
② 関連性:自分たちの課題や文脈と合っているかどうかを検討する
③ 行動可能性:この情報をもとに、具体的にどんな行動が取れるかを考える
これらの視点は、情報そのものではなく、“意思決定のための整理法”として活用できます。
【情報から行動へ:問いのある会議のすすめ】
情報を共有するだけでは、現場の行動は変わりません。大切なのは、『この情報をもとに、私たちは何をするのか』という問いを立てることです。
野中郁次郎氏ら(2002)は、知識創造には対話と省察の場が必要だと述べています。
この考えに基づき、ある施設では定例会議の最後に『今日の情報の中で、来週1つだけ変えるとしたら?』という問いを設けました。
この問いによって、小さな改善提案がスタッフから自然に生まれるようになりました
問いがあることで、データが行動につながり、現場の学びにもなっていきます。
情報を活用するとは、ただ正確なデータを集めることではありません。
『どの情報を、どう使うか』を問い続けることが、意思決定の質を高める鍵となります。
現場で本当に求められるのは、情報そのものよりも、それを扱う私たちの“目”と“姿勢”です。
『この情報は、私たちに何を問いかけているのか?』という視点を持つチームは、変化の激しい時代においても、柔軟に学びながら前に進んでいけることでしょう。
田中 智恵子
【参考文献】
Argyris, C., & Schön, D. A. (1978). Organizational Learning: A Theory of Action Perspective.
Gigerenzer, G. (2014). Risk Savvy: How to Make Good Decisions.
Guyatt, G. et al. (2008). JAMA Evidence: The User’s Guide to the Medical Literature.
Schwartz, B. (2004). The Paradox of Choice: Why More Is Less.
野中郁次郎・勝見明(2002)『知識創造企業』東洋経済新報社。
厚生労働科学研究(2018)『医療情報の評価と意思決定支援に関する研究』報告書。