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組織行動論から再考する医療の質~ 患者サービスを左右する「判断基準」の設計~

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これまで、スタッフアイズでは、医療現場の問題を「問題解決スキル」のケースから記載をしてきました。課題を特定し、原因を分析し、対策を講じる。その手順は有効であり、一定の成果がありました。その一方で、問題解決研修時に、メンバーの意識改革の相談を受けることが多々ありました。

そこで、今回は、医療の質の向上について、組織経営論や組織行動論の書籍をもとに、別の角度から考え直してみました。

 

医療現場では、患者サービスの質のばらつきの原因について「忙しさ」「個々の意識」「経験年数」といった説明がなされがちです。しかし、それだけが主因であれば、これまで多くの医療機関が行ってきた接遇研修や意識改革によって、質は安定していることでしょう。現実には、努力を重ねても質が揃わないという状況が続いています。

 

今回、この問題は
【個人の姿勢ではなく、組織がどの判断を“妥当”とみなしているかという構造】にあるのではないかと考えました。

 

行動は最後に現れる

組織行動論では、人の行動は直接操作できる対象ではないと述べています。(行動理論:Argyris & Schön)。

つまり、人は、

・何に注意を向けるか
・それをどう解釈するか
・何を妥当な判断基準とするか

という過程を経て行動に至ります。

 

医療の現場では「もっと丁寧に」「もっと配慮を」と行動に働きかけることがありますが、
しかしそれは結果への介入にすぎません。

視るべきなのは、行動を生み出している判断基準です。

 

ここで示されるのが、シングルループ学習とダブルループ学習(Argyris)の違いです。

シングルループ学習とは、「やり方」の修正です。
例)「説明が足りなかった。次はもっと丁寧に説明しよう。」

 

ダブルループ学習とは、「判断基準そのもの」を問い直すことです。
例)「私たちは“説明したかどうか”を基準にしていなかったか。」「本当に見るべきは“患者が理解できたか”ではなかったか。」

前者は努力の強化、後者は判断構造の更新です。

医療の質が揃わないのは、多くの改善がシングルループにとどまり、判断基準に踏み込めていないからではないでしょうか。

 

判断基準が揃っていないという現実

医療現場では、それぞれの専門職が妥当と考える基準を持っています。例えば

あるスタッフは「十分説明した」と判断する。
別のスタッフは「まだ不安が残っている」と感じる。

どちらが正しいかという問題ではありません。
問題は、何をもって妥当とするのかが組織として明確でないことです。

 

組織行動論では、人は客観的事実そのものではなく、自らが意味づけた現実に基づいて行動すると説明されます(センスメイキング理論:Weick)。

 

つまり、医療の質は「努力量」ではなく、組織が共有している意味づけと判断基準によって規定されると考えることができます。

判断基準が共有されていなければ、行動は個人差に依存します。共有されていれば、自然と揃います。

質のばらつきとは、能力差ではなく、判断構造の差なのです。

 

問いは判断基準を可視化する

では、その判断基準はどのように形成されるのでしょうか。私は、その中心にあるのが「問い」だと考えています。

医療現場では日常的に問いが使われています。とりわけカンファレンスは象徴的です。

もし繰り返される問いが
「問題はなかったか」で止まっていれば、組織の注意は“異常の有無”に集中します。

そこに「患者はどう感じていたか」が加われば、体験の側面が共有されます。

さらに「私たちは何を根拠にその判断をしたのか」まで扱うと、初めて判断基準が言語化されます。

 

問いは行動を直接変えません。
問いは、注意の向きを決めます。

注意が変われば、解釈が変わります。
解釈が変われば、判断基準が整理されます。
判断基準が整理されれば、行動は揃います。

質の改善とは、行動への介入ではなく、判断構造への介入なのです。

 

医療の質を決めているもの

最も重要なのは、組織がどの判断を正当と承認しているかです。

医療の質は、人材の能力の総和ではありません。それは、組織が無意識に採用している判断基準の集合体です。

医療の質を安定させるには行動を指示するのではなく、
判断構造を可視化し、更新できる問いを設計することが重要ではないでしょうか

 

田中智恵子

 

 

参考文献

Argyris, C., & Schön, D. A. (1978). Organizational Learning: A Theory of Action Perspective. Addison-Wesley.
Argyris, C. (1991). Teaching Smart People How to Learn. Harvard Business Review.
Weick, K. E. (1995). Sensemaking in Organizations. Sage Publications.