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PCR検査のエコノミクス

UPDATE

2021.09.24

あまりタイムリーではないかもしれませんが、PCR検査で、プール方式がよいのか、個別方式がよいのか議論になった時期がありました。もちろん、プール方式の方が、一度にたくさん検査できるのでいいのですが、果たしてどんなエコノミクスなのかを考えたことはありますか?少しいろいろ計算をしてみましょう。

 

まず、”プール方式”とは一つの検査容器(チューブ)に複数人の検体を入れ、陰性なら全員分陰性を確定させるというものです。96個同時に検査できるような機械で、個別方式だと96人分しかできないものが、1つの容器に5人入れると一気に480人まで検査出来ることになります。厚労省の推奨ではプール検査は5検体程度までと考えられているので、5検体のプールを基本として比較していきます。検査価格は1回あたりとし、原価が同じであると仮定すると、結局のところ『陽性率がどのくらいになると、回数が多くなるのか(または少なくなるのか)』という問題に簡略化できます。そう考えると、プール検査の陽性患者確定までのトータル検査回数の期待値が、E(X)≦5 となることが求められます。

場合分けなどの細かい計算をしない方法でざっくり考えるのですが、陽性率をPとすると下記の式となります。

E(X)=1×(1-P)5+6×(1-(1-P))≦5 です。

2項目の6という数字は、プール方式で陽性になった場合、確定させるために、2回目の検査は個別で再検査を行うことになるので、5人の検査で6回検査をすることになるということから出てくる係数です。これを解くと

P≦0.275 となるので、“陽性率が27%まではプール方式で検査をした方が、回数が減って安上がり”という事がわかります。

実際には、プール方式にするために前処理が必要なので、回数がそれなりに減らないと選択しないでしょうが、陽性率が15%くらいまでならプール方式を選択する方がよいとの結論が得られると考えます。プール方式で検査は格段に増やすことができることがわかりますね。

 

検査自体のエコノミクスに触れる必要はないかもしれませんが、外注のものは概ね次のようになると思っています。検査の原価は12,000円ほどです。4,000円は試薬代、4,000円は検査人件費など含めた検査会社の費用、残りが輸送代(検査会社負担)という所でしょうか。ちなみに機械は96穴のものがよく流通しているタイプで、1台300万円くらいです。意外と高いのは“リミックス”と呼ばれる試薬です。また、法定伝染病の場合、輸送に様々な規制があり負荷がかかるので、検査会社が外注で受けるにはそれなりに大変です。クリニックですと検査会社が1日一回受け取りに来る感じでしょうか。検査結果は、朝に来院して検査をしても翌日以降になります。

 

医療機関側では集団検査でない場合、検体採取や、患者対応、感染防止などで、人件費がかかります。

所要時間は医師が15分、看護師など周りのスタッフをトータル10分とすると、医師の時給15,000円として、3,750円、スタッフを時給2,000円として333円となります。他には衛生資材がコストとなるでしょう。

結果、診療報酬の18,000円+診断料の1,500円=19,500円の収入に対して、費用は12,000円(原価)+3,750円(医師人件費)+333円(スタッフ人件費)+1,000円(衛生資材)でトータル17,083円となり、利益は2,417円となります。

 

受付を分けるなど様々な運営上の工夫も必要なことを考えると、計算以外にも機会損失や人件費は生じるので、1日の検査人数によってはトントンといったところかもしれません。また、検査で陽性者が出た時に提出する発生届けも記入する項目が多く、慣れるまではかなり負担です。

診療所であまりPCR検査が増えない理由は一つだけではないと考えますが、エコノミクスから言っても当然の帰結だったのかもしれません。

 

米道利成