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秋の『孤独な散歩者の夢想』的脳内散歩

UPDATE

2023.09.28

18世紀のフランスの思想家ジャン=ジャック・ルソーの晩年の著書に『孤独な散歩者の夢想』という作品があります。社会契約論を中心としたルソーの哲学書の中ではやや異質というか、ルソーの思考の過程が垣間見れるような哲学エッセイです。

この本の中でルソーは日々の散歩を通じて浮かび上がる思想や印象をもとに、自己との対話を繰り返します。彼の言葉を借りれば、「頭を空っぽにし、何の抵抗もせず束縛も受けず、気質のままに思考する」ことにおいて、「孤独」という状態が自然との深い調和と精神的な豊かさをもたらすのだそうです。自然以外の存在が自分だけであるという状態が内省を深め、自己理解と自己啓発を高めていく効果があるからである、ということのようです。

 

そんな自然の中での「孤独な散歩」がなかなかできない毎日を過ごしていると、たしかに頭の使い方、思考のめぐらし方がどんどん硬直していくように感じます。

ゼロベース思考のゼロ点が高くなってしまうというか、自分のゼロ点がすでに何かの前提条件に乗ってしまっていると感じます。他者とのディスカッションを行っていてもそれぞれの「異なるゼロ点」が交錯している感覚に陥りますから、思考の整理がしにくくなってしまいます。やはりじっくりと内省をすすめる「孤独な脳内散歩」の時間を持つことは必要ですね。

 

物理学における重要な概念である絶対零度は、物質の分子運動が完全に停止する状態になる限界温度です。ルソーが孤独な散歩の中で求めたのは、自然の中で自分の思想を一旦手放し、自然の中で社会からも切り離された精神状態をつくり、思考を止め(絶対零度状態)、その中でふわふわと浮かんでいる抽象的な思いや感覚を楽しむ「夢想」時間だったのでしょう。自然との調和の中に内面的な平和を求めたルソーらしい思考方法ですね。

ようやく朝晩は過ごしやすくなってきましたので、ルソーの境地にまで到達するのは難しいかもしれませんが、せめて「自由な脳内散歩」で思考をめぐらす「孤独な時間」を持ちたいですね。電車での移動時間の有効活用にもなりそうです。「夢想メモ」は後で見返すと、つじつまが合っていないものや突拍子もない発想のものが多いですが、それもまた「新たな視点」のネタになるかもしれません。

 

24時間365日止まることのない人の暮らし、その暮らしを支えるインフラとなる医療介護福祉サービスの提供も、常に動き続け、止まることはありません。その中で「そもそも・・・」とゼロベースで考えるのはなかなか難しいことでしょう。第三者の異なる視点からの発想からの気付きもありますので、ちょっと思考が先に進まないなと感じたら、お声掛けください。一緒に「夢想」しながら、少し先のことを考えましょう。

 

石井富美