社長ブログ

by 遠山 峰輝

BLOG遠山峰輝のつづる日常

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    2018.09.09

  • 本の値段

    読書が趣味の一つになってからもう5年くらい経過するであろうか。そもそも小さい頃から読書が苦手だった。特に小学生の夏休みの宿題になるような課題図書だ。夏目漱石の「吾輩は猫である」などは、何度読んでも最後まで続かず、何回も何回も冒頭の出だししか読めない。そもそも「読書が趣味なんてあり得ない」「そういう人はよほどやることが無いのだろう!」とまで思っていた。今考えると恥ずかしいが。そんな中、2013年の夏に本屋をうろついていたところ、「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」という村上春樹の小説が目についた。タイトルに興味をそそられたのと、本の表紙がカラフルで綺麗だったからだ。読んでみたらとても面白く、はまってしまった。村上春樹ってどんな人なんだろうかと小説家に興味を持ち、彼の全てを読みあさった。ここから読書が趣味となってしまった。読み方としては、これも釣り同様こだわりが多く、面白い本を一つ読むとその作者の本を全て読んでから次に行くというスタイルである。その後、推理小説、社会派の小説、純文学など基本的にはジャンルを問わず、小説家を追いかけているように思える。これが多いのか少ないのかわからないが、2013年最初に読書にはまった年から3年間は年間100冊以上は読み、今でもそのペースはそう落ちていないように思う。これだけ読むと結構な本への出費となる。

    ところで文庫本の値段はほぼ皆同じである。微妙な違いが何によるものなのか、本のページ数なのか、紙質なのかなどあまり考えたことはないが、とにかくどの本も大きな違いがない。そんな中で本のコストパフォーマンスというものを考えてみる。本が与える読者に対する価値は様々であり絶対的な基準はないであろう。ある人にとって価値がある、或いは満足度が高い本も、そうでない人には紙屑同然かもしれない。一方で作者が本を執筆するのにどれだけのコスト(或いはインプットといった方がいいのかもしれない)をかけたのかという見方も存在するだろう。これは単に時間やお金だけではなく、小説における創造力など、これらでは図ることのできない要素も多分にあるはずだ。今、実は山崎豊子の小説を全て再度読み返している。彼女の小説は、読書が趣味になってから初期の頃にはまり、全て読んだ。皆さんもご存じかと思うが、彼女の取材に費やす労力とコストは半端ではない。例えば、彼女の代表作の一つである「大地の子」は日本人の中国残留孤児を題材としたものであるが、取材から完成まで8年。取材だけで3年を費やしている。しかもその取材は過去の日中関係の本質に入り込むなど高い壁の連続であったことは容易に想像できる。こう考えると1冊600円程度の文庫本(全部で4巻であるが)の値段は安いと思ってしまう。もちろん売れた部数が多ければ1冊当たりのコストは下がるのだが、そんなことよりも、これだけ大変な労力とお金をつぎ込み、読者に感動を与える小説にはもっともっとお金を払いたいと思う。或いは一回読むだけではもったいないと思う。だから今回読み返しているわけである。文庫本はどれも同じ値段、読者に与える満足度はもちろん大事なのだが、その一冊に投じられた労力、コストも考えると面白い。

    遠山峰輝

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