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医療DXを組織論から考える ~技術導入だけでは現場は変わらない~

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ここ数年、医療施設から医療DXに関するご相談をいただく機会が増えました。

電子カルテの更新、音声入力システムの導入、AIを活用した記録支援など、内容はさまざまです。DXという言葉も、医療現場では特別なものではなくなりつつあります。

 

その一方で、管理者の方々から、こんな言葉を耳にすることがあります。

「入力時間は短くなりました。」
「記録は以前より楽になりました。」

そして少し間をおいて、

「でも、現場はあまり変わっていないです。」

 

この言葉には、医療DXが抱える課題が端的に表れているように思います。

 

システムは変わった。業務も変わった。それでも現場が変わらないと感じるのであれば、本当に変えるべきものは別にあるのではないでしょうか。

 

今回、組織経営論を読み返している中で改めて印象に残ったのが、「社会技術システム論」という考え方です。

社会技術システム論は、1950年代のイギリスの炭鉱労働に関する研究から生まれた考え方です。当時、新しい採炭技術が導入されましたが、期待されたほど生産性は上がらず、むしろ現場の混乱や働きにくさが生じました。

その背景には、技術そのものの問題だけでなく、従来のチームの働き方、役割分担、情報共有の仕組みが、新しい技術に合っていなかったことがありました。

この事例から示されたのは、技術を入れ替えるだけでは組織はよくならないということです。技術と人、仕事の流れ、チームの関係性をあわせて設計しなければ、期待した成果にはつながりにくいのです。

 

つまり、この理論では、組織は「技術」だけで動くのではなく、人の役割、仕事の流れ、情報共有、判断の仕方と一体で成り立つと考えます。つまり、技術だけを変えても組織は変わらず、技術と組織を同時に設計する必要があるという考え方です。

 

この視点で医療DXを見直すと、現場で起きていることが理解できます。

たとえば、音声入力システムを導入した病棟や外来を考えてみます。

導入前は、「看護記録の時間を短縮し、患者さんと関わる時間を増やしたい」という目的がありました。確かに、文字を入力する時間は短くなるかもしれません。

しかし実際には、「AIが作成した文章をどこまで修正するのか」「誰が最終確認を行うのか」「申し送りではどの情報を共有するのか」といった、新しい判断が現場に生まれてしまうのです。

入力という作業は減っても、判断は減りません。むしろ、判断の質がこれまで以上に問われる場面が増えていきます。

 

ここで大切なのは、AIや音声入力が良いか悪いかではありません。

新しい技術を導入するときに、それに合わせて仕事の流れ、役割分担、情報共有の方法、判断の基準まで見直せているかという点です。

システムだけが新しくなり、組織の仕組みが以前のままであれば、「便利にはなったが、現場は変わらない」という状況が起きても不思議ではありません。

 

医療DXで最も重要なのは、システムの導入そのものではなく、「どのような判断を行う組織を目指すのか」を考えることだと思っています。

 

誰が判断するのか。

どの情報を基に判断するのか。

判断した内容を、どのようにチームで共有するのか。

これらが整理されて初めて、技術は医療の質の向上につながっていくでしょう。

 

管理者に求められる役割も、以前とは少し変わってきているように感じます。

システムを導入することではなく、そのシステムを活用して、現場がより良い判断を行える環境を設計すること。技術と組織を結び付けることこそが、これからの管理者に求められる重要な役割ではないでしょうか。

 

医療DXというと、どうしても新しい技術に目が向きます。しかし、技術だけで医療の質は変わりません。

組織がどのような判断を行い、その判断をどのように支える仕組みをつくるのか。

医療DXとは、その組織の在り方を見直す機会でもあります。

 

医療DXの成否を決めるのは、システムの性能だけではなく、技術を生かせる組織を設計できるかどうかにあると考えています。

 

田中智恵子