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道具を使うか使われるか

UPDATE

2020.08.14

先日アップルウォッチ買った友人と話した。話によると、この時計は単に時間がわかるだけでなく、多くの機能があるようだ。例えば「通話」、「電子マネーでの買い物」、「音楽の再生」、「緊急時の消防、警察への連絡」、「心拍の記録」ともはや時計の域を超えているように感じる。私自身は「時計は時間がわかればよい」という信条なので欲しいとまでは思わないのだが、便利な世の中になったものだと月並みに思ってしまった。

 

ツールの発展に関しては医療の世界にも同様に起きているように感じる。病院で働く方ならおなじみの『電子カルテ』か『DPC分析ソフト』、『原価計算作成ソフト』と多くの便利なツールが溢れている。私自身はDPCソフトの分析をする機会が多いのだが、ディレクターからは「昔は紙カルテの資料を自分の手を使って整理した」という話も聞く。知らず知らずのうちに、我々は所謂「便利ツール」の恩恵を受けていると感じた。

 

一方で多くの便利ツールが溢れているなか、ユーザー全員が適切に使いこなせているのかというと、そうではないと思われる。例として『原価計算ソフト』について話す。診療科別原価計算は各診療科の採算性を評価するために重要なもので、配賦基準を如何に信憑性があるものにするかが重要である。私もその部分の毎回頭を悩まされるのだが、「原価計算ソフト」はこれを前もって決められた配賦基準で、各診療科に振り分ける非常に便利なツールだ。

 

クライアントの施設にたまたまソフトが入っていたため、どのように配賦しているか勉強する機会があった。便利であるが故に徹底的な理解が必要なものであると感じた。配賦基準は信憑性があるかはもちろん理解すべきだが、結果についてもこの診療科は赤字だがどの段階で赤字なのか、(直接関わった医師/看護師の給与までか、コメディカルまでか、はたまた共通費までなのか)そもそも妥当か?といった理解が必要である。自分で頭を悩ませながら作った場合は、そこら辺については十分自信を持てているはずなのだが、スイッチ1つできてしまうと「よくわからないがこうなった」という理解に留まってしまう可能性がある。表面的な理解だと適切な意思決定をする判断材料にならず、ただの数字の山になってしまう。そればかりか間違った意思決定をしてしまう可能性もある。私自身も理解にかなり時間を要したが、理解をして初めて、この原価計算結果は正しいと信じることができた。ツールは所詮ツールであり、人間の意思決定を補助するための道具でしかないのだ。

 

世の中の道具の使い方にも同様のことが言えるのではないか。先に話したアップルウォッチの友人2名のうち1名は、結局のところ時間を確認する以外の機能を使っていないようである。電子マネーも使わなければ、運動もしていないので心拍数も測る必要がない。ついでに音楽も聴かない宝の持ち腐れ感が漂う。(最初こそはよかったが、ちょうど昨日聞いてみたら購入を後悔していた笑)結局のところ、道具は人間の行動を補助するだけのもの。使う側の人間が意思を持って、自分の目的に沿う道具を適切に使うことが必要なのではないのだろうか。

 

井上和樹